忘れたい忘れたくない春が来た    横井 定利

忘れたい忘れたくない春が来た    横井 定利 『この一句』  合評会で「キャッチフレーズみたいだが」という言葉があった。言われてみればそういう感じもあるが、よく読めばキャッチフレーズではないのは明らかだ。理由は「忘れたい」のひと言である。大震災について、日本の国民に呼びかけるなら「忘れない、忘れたくない」でなければならない。  「忘れたい」というのは、あの地震、津波、原発事故から目をそらせたい、出来るだけ考えたくないという、人間らしい心の表白とも言えよう。表面的には「忘れない」「忘れまい」と肩肘張っている。しかし時には本音をもらしたい、というところに俳句的心情が見えてくるのではないだろうか。  当欄「みんな俳句」が昨年三月二十日に始めた「震災俳句特集」のことを思わずにいられない。スタート時点では「震災の句は詠めない」という意向がかなり編集担当に寄せられたが、集まった句数は予想をはるかに上回っていた。「芽吹き」という冊子にまとまった句を改めて読み直してみて思った。詠みたくない、詠まずにいられない――。震災句を詠む心は、いまなお左右に揺れ続けている。(恂)

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