春暁や仔馬誕生立ちあがる      佐々木 碩

春暁や仔馬誕生立ちあがる      佐々木 碩 『季のことば』  馬は四足で立っているのが一番楽な姿勢だというが、出産が近付くとさすがに、ごろりと横になってしまう。馬を飼う家は、それからがたいへんである。出産の時間は、獣医も正確に言い当てるのが難しいという。家族が厩舎に集まり、今か今かと待ち構えるが、仔馬はそう簡単には産まれてこない。  この句の場合は明け方になってしまった。家族は徹夜であったのだろう。ようやく仔馬の頭が見え、前足が出てくる。子供たちは「がんばれ、がんばれ」と声をかける。父親や兄たちが力を合わせ、足を持ってずるずると引き出す。胎盤が出る、羊水も流れ出す。「出たぞ」「よくやった」の声。  馬は前年の春に身ごもり、妊娠の期間は三百数十日間。出産はおおよそ春になる。厩舎の外は、少しずつ明るくなってきた。家族はしみじみと「春の暁」を感じ取っているのではないだろうか。やがて仔馬はよろよろと立ちあがった。その時はもう母馬の乳を求めているのだという。「仔馬」は春の季語になっている。しかし「春暁」こそが、この句に最も相応しい季語だと思う。(恂)

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