桑畑赤城おろしの二月かな        高井 百子

桑畑赤城おろしの二月かな        高井 百子 『この一句』  赤城山の麓で農業を営む人の話を聞いた。戦前、国策によって満州の開拓に携わり、ほうほうの態で引き上げてきて、宛がわれたのが現在の地であった。噴石のごろごろした地を開拓していく親子の奮闘は聞くも涙の物語。現在の安定した生活ぶりを知って、ようやくほっとしたものである。  句会でこの句に出会った時、聞いたばかりの話がまざまざと甦ってきた。桑畑には葉のない枝が伸びているばかり。赤城おろしがびょうびょうと吹きわたっている。頭の中に描かれていた情景が、この句によってさらに鮮やかになり、身も凍るような二月の畑中に立っている気持ちになった。  「慌てて作った句なのに」と作者は語っていた。句会当日になって、あと一句がまだできない。もういいや、と故郷の風景を思い出すままに詠んだそうである。練りに練り上げた句がいいとは限らない。むしろすらっと、素直に出てきた言葉が人の心を強く打つものだ。しかし、とも思う。意識して素直に詠んでみても、なかなかいい句が作れない。「素直に」なんて思うことが、邪念なのかも知れない。(恂)

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