火を焚くや赤尾の豆単めくれをり 井上 啓一
火を焚くや赤尾の豆単めくれをり 井上 啓一
『合評会から』(番町喜楽会)
正裕 赤尾の豆単、昔ですねえ。懐かしい。さすがにもういらないというので焚き火にくべている。炎でめくれているところが何か怨念めいて・・(笑い)
透 私は最初なんのことか分からなかったんですよ。あんまり昔のことで記憶の底から抜けてた。そうしたら、ありましたよねえ。懐かしくなって、すぐに採っちゃいました。
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焚火の句をもう一句。これはなんとまあ「赤尾の豆単」である。あまりにも突然という感じで皆々呆気にとられた。赤尾好夫著「英語基本単語集」、通称赤尾の豆単が世に出たのは昭和十年(1935年)、その後「熟語」が付け加えられて改訂々々、中学高校生のほぼ全員が持っていたと言っていいだろう。
この人は本を捨てられない人らしい。奥さんに叱られてしょうがない、焚き火にくべた。しかし本はなかなか燃えない。棒でつつくとページがめくれてめらめらと炎が上がる。五、六十年前がふわーっと浮かび上がる。(水)