回廊の曲がりを飾る野水仙     高石 昌魚

回廊の曲がりを飾る野水仙     高石 昌魚 『この一句』  古い日本旅館、それも大きな温泉宿を思わせる。本館、別館などがあり、いくつかの建物は回廊、つまり長くて折れ曲がった廊下でつながっている。道路の下を通って別館に行く廊下などもあり、湯殿に向かうと緩やかな下りになっているようなところが多い。そういう廊下の曲がり角に水仙が活けられている。  宿屋の庭か、近隣の山際などに咲いていたものだろう。野水仙だから古来のニホンズイセンである。葉がたくさん繁っており、小さな花は目立たない。ところが茎の下のあたりを剪って一本だけを取り上げると、にわかに凛とした水仙特有の品格を放つ。それを二三本、小さな花瓶に挿して飾り棚の上に飾る。廊下の曲がり角だから、壁につくり付けられた三角形の小さな棚かもしれない。  作者は寒い廊下を通り、湯度に向かっているのだと、勝手に想像する。白いタオルを持ち、浴衣の上に丹前を羽織り、少し背を丸め、スリッパでぺたぺたと歩いて行く。角を曲がるとき、作者はふと目をとめた。薄暗い廊下の一隅に野水仙の数輪が白い光を放っていたのではないだろうか。(恂)

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