手術待つ妻饒舌に長き夜       大澤水牛

手術待つ妻饒舌に長き夜       大澤水牛 『この一句』  奥さんの手術の日が近付いた。どちらかと言えば無口な方だが、急におしゃべりになってきた。これまでは早寝の奥さん、宵っぱりのご主人(作者)だった。ところが最近では秋の夜長をともにしている。医師から、心配ない、安全だ、と言われてもやはり不安になる。その一方で早く手術を終えたい、と待ち焦がれるような思いもある。そんな複雑な奥さんの心理が「饒舌」の一言に込められている。  手術の当日、待機室にいたご主人は、句帳を広げて一句、一句と書きつけていった。ところが後になって句を見ると「どれもうわごとのようなもので、つくづく人間が出来ていない、と思った」とご当人が語る。しかしそれは、人間の出来、不出来とは別の問題だと思いますがね。  結果をお知らせしなければならない。医師の説明では「ほぼ完璧」だったそうである。ともかくよかった、よかった。これから元通りの生活に戻って、ご主人には独りだけの長き夜が訪れる。待機室で記した“うわごと”が立派な句に練り直され、やがて句会に登場してくるのではないだろうか。(恂)

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