霧晴れぬままに夜回り終へにけり   大平 昭生

霧晴れぬままに夜回り終へにけり   大平 昭生 『この一句』  濃霧の中の夜間防犯巡回を終えた、と受け取ったとしたら、これは取り立ててどうこう言うこともない句であろう。それに夜回り(夜番)は冬の季語であり、妙な季重なりと思う人もあるかも知れない。  しかしである。酔吟会という社会部記者OBの多い句会に出された句だと知って読み直すと、俄然面白味が湧く。この「夜回り」は拍子木を打ち鳴らして町内を回る夜番ではなく、事件捜査に当たる刑事や検事、関係者の自宅を夜分訪れ、あれこれ聞き出す骨の折れる辛い仕事を指している。「夜討」とも言う。  歓迎しない夜間訪問を受けた方は居留守を使ったり、たとえ会ってくれても守秘義務を盾に事件の進展などそう易々と喋ってくれるはずもない。大抵は空振りである。しかし人間情の動物。お百度を踏んでいると禅問答のようなやり取りのうちにポロッと、ということもある。一縷の望みをつないで今夜も出かけたのだが、やはり獲物は無く霧は晴れない、というのである。まさに仲間内にしか通じない楽屋話のようだが、なんともペーソスを感じる句である。(水)

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