鐘楼に人影遠く秋の暮         笹本 塘外

鐘楼に人影遠く秋の暮         笹本 塘外  『この一句』  鐘楼(しょうろう)は「しゅろう」とも言うが、鐘撞堂(かねつきどう)の方がより一般的だろう。周辺に広く時刻を知らせる役割も持つので、音が遠くまで届くところ、つまり町や村が直接、見通せる場所に建てられていることが多い。逆に言えば、鐘楼は人々の住むあたりから、見えやすい所にある。  寺が夕方に鐘を鳴らすのは、昔は「暮れ六つ」、今では午後五時、六時あたりが多いようだ。その時刻になると「そろそろ鐘が撞かれる頃だ」と遥かな鐘楼を眺める。すると鐘楼に小さな人影が現れて、やおら鐘を一突き。「ご~ん」という音が町や村に届くまで、一秒くらいかかるのではないだろうか。  この句は秋の夕暮の一典型。都会の人には懐かしの風景になっているので、現今の句会では評価が下がってしまうかも知れない。時代とともに秋の暮も変化しつつあり、最近では「瓦礫の原の秋の暮」もよく見かける。そんな中、昔ながらのオーソドックスな秋の暮。なかなか捨てがたい味がある。(恂)

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