敗戦忌馬に蹴られし兵と会ふ   原 文鶴

敗戦忌馬に蹴られし兵と会ふ   原 文鶴 『この一句』  日経俳句会で実際に「兵隊さん」だった人はこの句の作者だけである。たしか輜重部隊だったと伺ったことがある。武器弾薬、食糧などをトラックや馬に引かせて運ぶ、軍隊には極めて重要だが地味で苦労の多い部署である。しかしこの作者もやはり戦争中のことはあまり多くは語らない。今更当時の辛かったことをあれこれ話しても仕方がないと思うのだろうし、自慢話に受け取られてしまうようなことも話したくないという心境に違いない。  生き残った戦友も寄る年波でだんだん減って行く。それでも同じ釜の飯を食った仲間との集いは何よりも懐かしい。「そうだった、お前は馬に蹴られたことがあったなあ」。馬は滅多に人を蹴りはしないのだが、よほど嫌気がさしていたに違いない。敗色濃厚、人も馬もいい加減くたびれていたし、殺気だっていたのだ。馬に蹴られた輜重兵というのは、今でこそ笑いのタネだが、当時はお笑いごとどころではなかった。「友と会ふ」ではない、こうして何十年たっても会えば「兵」なのである。ユーモアを感じさせる句だが、ずしりと来る。(水)

続きを読む