雲の峰喪服の人のいそぎ足       玉田春陽子

雲の峰喪服の人のいそぎ足       玉田春陽子 『この一句』  喪服の人が葬儀の場へ急いでいる。雲の峰が見えるのだから、お通夜ではなく、告別式に向かっているのだ。葬儀は正午かその前後三十分くらいに始まるのだろう。その時刻に間に合おうとすれば、急ぎ足にならざるを得ない。空は晴れ渡り、真夏の日差しが降り注いでいる。  この辺までの想像は、まず間違いないと思うが、以下のことも大方の同意を頂けるのではないか。喪服の人は女性である。着ているのは和服だろう。そのようなことについて、句は一切触れていないが、略礼服の男性では味わいがない。つまりこれは、和服の女性であって欲しい風景なのだ。  女性は息が切れるし、焦りも感じているだろう。歩きながら汗を拭っているかも知れない。しかしそれらがこの句のテーマはではないと思う。大通りの行く手にまっ白な夏の雲が湧いている。喪服の女性が急いでいる。この句はそんな遠景を、あたかも望遠レンズで覗くように、大づかみに描いている。私は、この一句に一枚の絵を思い浮かべてしまう。それも白と黒を厚く塗りこんだような油絵なのである。(恂)

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