合宿の素麺冷やす大盥         大熊 万歩

合宿の素麺冷やす大盥         大熊 万歩   『この一句』  素麺は最も家庭的な食べ物の一つである。蕎麦店で注文することもないわけではないが、ほとんどの人は家で茹でて食べているのではないか。家族そろっての場合も、たった一人でも、どちらもよくあることである。変わった素麺の風景は? せいぜい素麺流しくらいまでしか考えが及ばない。というわけで、素麺の俳句を作ろうとすると、思考は常識の範囲で止まってしまいがちだ。  ところが、この句は合宿の素麺を持ち出してきた。しかも大盥(たらい)である。運動部の合宿を引き受けている宿屋や民宿では、三食付きが普通で、昼食用に素麺用の大盥を用意しているところがある。午前の猛練習を終えた後の昼食に、冷えた素麺が大盥で運ばれてきたら、これはもう……。  思い出がどっと湧いてくる人がいるのではないか。私の場合は、五十年も前の柔道部の合宿である。まだ食糧事情はよくなかった。大盥の素麺をマネージャーらが丼に公平に取り分けていたことを思い出す。あのころ、思う存分食べていたら、どれくらいの素麺を平らげていただろう。(恂)

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