生きている今万緑の底にゐて   大沢 反平

生きている今万緑の底にゐて   大沢 反平 『この一句』  もし三十年前だったら……と考える。私はこの句を「大袈裟だな」と評したと思う。作者も私と同年輩だから、このように詠むことをためらったのではないだろうか。しかし今は違う。作者は自分の心を素直に詠み、私はこの句を見て、「本当にそうだなぁ」と心から共感する。互いに古希を過ぎ、命というものにまともに向き合うようになってきたからだろう。  この季節、木々は命に満ち溢れている。森の中でもいい、緑豊かな谷底でもいい。そこに居ればだれもが命を感じ、年とともに命への思いが深まっていく。俺はいま生きているのだぞ、と大声で叫ぶわけではないけれど、心の中にはそんな思いが渦巻くことがある。  年内の残り少ない日々を「数え日」という。七十歳にもなれば、もっと切実な「数え日」となるが、人間とは不思議なもので、悲しいとか辛いとかいう気分には全くならない。それどころか、何でも来い、何でもやってやろう、という勇気凛凛たる気持ちになる。だから作者はこのような句を堂々と句会に出し、私もこんな文章を「恥ずかしげもなく」書いているのである。(恂)

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