人去りし殺生石に夏の月     藤野十三妹

人去りし殺生石に夏の月     藤野十三妹 『勉強会から』  殺生石(せっしょうせき)は栃木県那須温泉にある溶岩。鳥羽上皇の寵姫・玉藻前が実は九尾の狐で、軍勢に殺されて溶岩と化したもの、とされる。ところがこの岩、悪い気を放って人畜に危害を与えるため、玄翁という僧が杖で打ち砕くと三方に飛び散り、一つが那須の地に残ったのだという。  実際に硫化水素など有毒ガスを発生し、人体にも危険を及ぼす。松尾芭蕉はこれに興味を持ち、「奥の細道」の旅で、この地に立ち寄った。途中は「野を横に馬牽きむけよほととぎす」と詠んだりしていたが、現場の様子は凄かったらしい。「蜂蝶のたぐひ真砂の見えぬほど重なり死す」と書いている。  現在は観光地として人気があり、大勢の人が訪れる。しかし夕方になると人々が次々に去り、夏の月が溶岩を照らしている、というのがこの句。原句の上五は「人絶えし」で、それでもなかなかの雰囲気を出しているのだが、勉強会で「それだと最近は観光客が来なくなった」という感じがする、という指摘があった。言われてみればその通り。さっそく「人去りし」と直して、すっきりした感じになった。(恂)

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