新緑の絵の具足りないリアス海   山口 詩朗

新緑の絵の具足りないリアス海   山口 詩朗 『この一句』  東日本大震災から間もなく三ヶ月になる。警察庁発表の被害状況によれば、6月5日現在の死者は15,365人、行方不明者は8,206人、各地に避難している人たちは未だに98,505人もいる。毎日少しずつ行方不明者の数が減って、死亡者が増えて行く。三ヶ月もたって行方不明というのはほぼ絶望と言わざるを得まい。つまり今回の大震災・大津波の犠牲者は2万3千5百人余という、戦争時以外では考えられない規模の犠牲者を出したことになる。  おびただしい人命を奪った大津波の三陸の海は、いまや何事もなかったように平穏な風景を描き出している。海岸近くには相変わらず瓦礫の山が築かれ、痛々しい跡を残しているが、生き残った木々は若葉をさかんに茂らせている。高い丘やヘリコプターか見下ろせば、日本有数のリアス式海岸はまるでのんびりと美しい海岸線を描き出している。青い海、白い波打ち際、茶褐色の浜辺、薄緑から濃緑の山々。平穏そのものの景色と見えるのがかえって痛々しい。そしてじっと見ていると何か塗り足りない思いがしてくるのだ。(水)

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